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東京高等裁判所 昭和49年(ネ)1022号 判決

控訴人(附帯被控訴人) 鈴木はま 外六名

被控訴人(附帯控訴人) 立松すみ子

主文

一、本件控訴を棄却する。

二、附帯控訴に基き、原判決を次のとおり変更する。

控訴人(附帯被控訴人)鈴木はま、同花村ふみ子、同鈴木隆、同赤羽まり子、同鈴木信治は第一電工株式会社に対し原判決添付目録一、二記載の鈴木憲章の同会社に対する各債権を被控訴人(附帯控訴人)に譲渡した旨の通知をせよ。

前項の通知がなされたときは、控訴人(附帯被控訴人)花村吉貫、同林政彦は連帯して被控訴人(附帯控訴人)に対し金三九二万三九〇一円、並びに、内金三一八万円に対する昭和四三年三月一六日から支払ずみまで年三割の割合による金員及び内金六〇万円に対する同日から支払ずみまで年三割六分の割合による金員を支払え。

被控訴人(附帯控訴人)のその余の請求を棄却する。

三、訴訟費用は第一、二審を通じこれを五分し、その四を控訴人(附帯被控訴人)らの負担とし、その余を被控訴人(附帯控訴人)の負担とする。

事実

控訴人(附帯被控訴人、以下単に控訴人という)ら代理人は、控訴につき、「原判決中控訴人ら敗訴の部分を取消す。被控訴人(附帯控訴人、以下単に被控訴人という)の控訴人らに対する請求を棄却する。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求め、当審で追加変更された請求につき棄却の判決を求めた。

被控訴代理人は、控訴につき控訴棄却の判決を求め、控訴人鈴木はま、同花村ふみ子、同鈴木隆、同赤羽まり子、同鈴木信治に対し控訴人花村吉貫、同林政彦に対する原判決添付目録一、二記載の鈴木憲章の債権を被控訴人に譲渡した旨の通知を求める請求を取下げ、附帯控訴に基き、「控訴人鈴木はま、同花村ふみ子、同鈴木隆、同赤羽まり子、同鈴木信治は第一電工株式会社に対し原判決添付目録一、二記載の鈴木憲章の同会社に対する各債権を被控訴人に譲渡した旨の通知をせよ。」との請求を追加し、控訴人花村吉貫、同林政彦に対し連帯して無条件で三九二万三九〇一円、並びに、三一八万円に対する昭和四三年三月一六日から支払ずみまで年三割の割合による金員及び六〇万円に対する同日から支払ずみまで年三割六分の割合による金員の支払を求める請求を前記追加した請求にかかる譲渡通知がなされることを条件として支払を求める請求に変更した。

当事者双方の事実上の主張、証拠の関係は、次のとおり附加訂正するほか、原判決事実摘示のとおりであるからこれを引用する。

原判決三枚目裏四行目に「交付したから、」とある次に「右被告らは鈴木憲章に右保証金額を定める権限を与えたか少くとも、」と、原判決四枚目裏八行目に「甲第三号証の」とある次に「成立に関する」とそれぞれ挿入する。

(被控訴人の主張)

一、仮に、原判決添付目録一記載の債権について、昭和四二年一二月一五日頃、現金の授受がなされていないとしても、被控訴人は鈴木憲章に対し昭和四二年五月頃一二〇万円を貸付けたのをはじめとして、同年一二月頃までの間に数回にわたり合計三一八万円を貸渡し、同人は右金員を同会社に貸付けて同会社の運営資金にあてて来たものであつて、同人は同月一五日頃もしくは二七日頃右貸借関係を整理するため控訴人花村吉貫、同林政彦と話合いのうえ右数回にわたる貸金債権を原判決添付目録一記載の契約による消費貸借の目的とすることにして、その旨の契約書(甲第一号証)を作成し、その頃右契約証書を被控訴人に交付して鈴木憲章の同会社に対する右契約上の債権を被控訴人に譲渡したものである。

二、仮に、甲第一、二号証が控訴人ら主張のような事情で作成されたもので、第一電工株式会社、鈴木憲章間に貸借がなかつたとしても、控訴人花村吉貫、同林政彦は鈴木憲章と通謀して甲第一、二号証を作成し、原判決添付目録一、二記載の各債権があることを仮装したものであるから、右仮装債権の善意の譲受人である被控訴人に対し右各債権が仮装であつて無効のものであることを対抗することができない。

三、仮に、被控訴人が昭和四二年一二月一五日原判決添付目録一記載の債権を譲受けなかつたとしても、被控訴人は同月二七日頃右債権を譲受けたものである。

四、第一電工株式会社と鈴木憲章との間の本件貸借が会社と取締役との間の取引であることは認めるが、

(一)  第一電工株式会社の取締役は、会社設立から昭和四二年一二月当時まで鈴木憲章、控訴人花村吉貫、同林政彦の三名のみであつたもので、右控訴人らは経営の一切を鈴木憲章に委ねていたのであるから、同会社の取締役会は本件貸借をはじめ、鈴木憲章が会社と取引をすることについて予め包括的に承認していたものである。

(二)  本件貸借については、昭和四二年一二月二七日の役員会において取締役会の承認もしくは追認がなされた。

(三)  本件貸借については、鈴木憲章を除くその余の取締役全員にあたる控訴人花村吉貫、同林政彦が第一電工株式会社の連帯保証人として契約書(甲第一、二号証)に署名押印しているのであるからそれ自体で取締役会の承認があつたものというべきであり、少くとも承認があつた場合と同視すべきである。

(四)  仮に、本件貸借について取締役会の承認があつたと認められないとしても、本件貸借について連帯保証をした取締役である控訴人花村吉貫、同林政彦が善意の債権譲受人である被控訴人に対し本件貸借は右承認を欠くから無効であると主張することは信義則に反し許されないものというべきである。

五、なお、原判決添付目録一、二記載の債権については、原審でした請求を変更し、控訴人鈴木はま、同花村ふみ子、同鈴木隆、同赤羽まり子、同鈴木信治に対し第一電工株式会社に対する債権譲渡の通知をなすこと、及び、控訴人花村吉貫、同林政彦に対し右債権譲渡の通知がなされることを条件に連帯して右一、二記載の債権元本合計三七八万円及び右に対する貸付日から昭和四三年三月一五日までの利息(それぞれ約定の利率を利息制限法所定の最高限度に減縮して計算)合計一四万三九〇一円並びに右一記載の元本三一八万円に対する昭和四三年三月一六日から支払ずみまで年三割及び六〇万円に対する同日から支払ずみまで年三割六分の割合による遅延損害金(それぞれ約定の利率を利息制限法所定の最高限度に減縮)の支払を求める。

(控訴人らの主張)

一、甲第一、二号証は、鈴木憲章と控訴人花村吉貫、同林政彦があい謀り、税金対策のために作成したものであつて、その記載のとおりの契約が実際に締結されたことはなく、原判決添付目録一、二記載の債権は実在しない仮装の債権である。

二、仮に、原判決添付目録一、二記載の貸借がなされたとしても、鈴木憲章は当時前記会社の取締役であつたから、商法二六五条により取締役会の承認を受けることを要するところ、右会社取締役会がこれを承認したことはないから右貸借は無効である。

三、被控訴人の前記当審で追加した主張のうち、第一電工株式会社の取締役が被控訴人主張の三名のみであつたことは認めるが、その余の事実は否認する。

(証拠)〈省略〉

理由

一、成立に争いのない甲第一、二号証、第四ないし第七号証、第八号証の一ないし一七、第九号証、第一一ないし第一四号証、第一五号証の一ないし五、第一六号証、第一七号証の一ないし六、第一八号証の一、二、第一九号証、原審における被控訴人本人尋問の結果(第一回)により成立の認められる甲第一〇号証、原審における被控訴人本人尋問の結果(第二回)により成立の認められる甲第二〇ないし二二号証、原審証人勝山美佐子の証言、原審における被控訴人本人尋問の結果(第一、二回)に弁論の全趣旨を綜合すると、被控訴人は第一電工株式会社が設立された昭和四二年五月ころから当時同棲中の鈴木憲章に対し同会社の運営資金として数回にわたり金員を貸付けていたが、昭和四二年一二月一五日ころまでにその金額は三一八万円にものぼつたので、その頃同人に対し右貸借関係を明確にするよう求めたこと、同人は被控訴人から借受けた右金員をその都度前記会社の運営資金にあててきたが、その計算関係等は必ずしも明確でなかつたので、昭和四二年一二月一五日ころ、当時同会社の代表取締役であつた控訴人花村吉貫、取締役であつた控訴人林政彦にはかり、従前鈴木憲章が同会社の運営資金に使用した右金員をまとめて同日付で同人が同会社に貸付けたこととし、弁済期を昭和四三年三月一五日、利息を年三割六分、遅延損害金を一〇〇円につき日歩三〇銭と定めたうえ、右貸金の返済については前記控訴人両名が連帯保証をすることとして右三者及び前記会社間でその旨の契約書(甲第一号証)を作成した後、被控訴人の前記鈴木憲章に対する貸金の支払いを担保する目的で被控訴人に対し右契約書を交付して右契約書記載の債権を譲渡したこと、ついで昭和四二年一二月二七日ころ鈴木憲章は前記会社の従業員の賞与の支払等にあてるためあらためて被控訴人から六〇万円を借受け、前記控訴人両名の了承の下に弁済期その他の定め、連帯保証等については前記同様にすることとして同日右金員を前記会社に貸付け、その旨の契約書(甲第二号証)を作成し、その頃右契約書を被控訴人に交付して右契約書記載の債権を譲渡したことを認めることができ、右認定に反する乙第一号証の三、乙第二号証の記載、原審証人花村ふみ子の証言、原審における控訴人花村吉貫、同林政彦各本人尋問の結果は前掲各証拠に照らしたやすく措信できず、他に右認定に反する証拠はない。

二、次に、右認定の鈴木憲章と前記会社との契約が締結された当時鈴木憲章が同会社の取締役であつたことは当事者間に争いがないから、右両者間の本件貸借は商法二六五条により取締役会の承認を要する取引であるということができる。そして、本件貸借について、同会社取締役会の承認があつたことを認めるに足りる証拠はない。しかしながら、弁論の全趣旨によれば、被控訴人は本件債権譲受当時本件貸借について取締役会の承認がないことを知らなかつたものと認めることができ、他方本件貸借の当時前記会社の取締役が鈴木憲章、控訴人花村吉貫、同林政彦の三名のみであつたことは当事者間に争いがないから、右控訴人両名は前記のとおり本件貸借について連帯保証をした際、本件貸借について取締役会の承認がないことを当然知つていたものと認められる。このように、商法二六五条により取締役会の承認を要する取締役と会社との取引について、その承認がないことを知りながら、右取引上の債務について連帯保証をした者が、その承認がないことを知らずに右取引上の債権を譲受けた者に対し、右取引は取締役会の承認を欠き無効であると主張することは信義則に反し許されないものというべきである。

三、そして、被控訴人主張のとおり鈴木憲章が死亡し、控訴人鈴木はま、同花村ふみ子、同鈴木隆、同赤羽まり子、同鈴木信治が相続によりその義務を承継したことは当事者間に争いがない。

四、したがって、控訴人鈴木はま、同花村ふみ子、同鈴木隆、同赤羽まり子、同鈴木信治に対し第一電工株式会社に対して原判決添付目録一、二記載の債権を被控訴人に譲渡した旨の通知をなすことを求め、控訴人花村吉貫、同林政彦に対し、右通知がなされることを条件として右債権元本合計三七八万円及び被控訴人の主張する利息の合計一四万三九〇一円、並びに、三一八万円に対する昭和四三年三月一六日から支払ずみまで年三割及び六〇万円に対する同日から支払ずみまで年三割六分の各割合による金員の支払を求める被控訴人の請求は理由がある。

五、よつて、本件控訴は理由がないからこれを棄却することとし、附帯控訴に基づいて原判決を主文第二項のとおり変更することとし、訴訟費用の負担について民事訴訟法九六条、九二条、九三条を適用し、仮執行の宣言を附することは相当でないものと認めて、主文のとおり判決する。

(裁判官 満田文彦 真船孝允 小田原満知子)

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